受験の記録・論文編・環境法

(受験の記録・目次)
(2)各論
(イ)環境法
(A)印象
毎年一問目が政策問題に関する一行問題、2問目が訴訟問題に関する事例問題という形式(08年1問目の分類は微妙か)。
聞いてくる内容自体は毎年基本問題。準備をしっかりすれば確実に得点できる。今年の問題も特に1問目は一瞬面食らったが「手法」に関する問題であることに気付いた後は楽に答案を完成させることができた。
配点変更により論文の得点がきわめて重要となった今、選択科目だからといって手を抜くのは戦略として誤り。準備を怠った他の受験生に対して積極的に差を付けていく姿勢で勉強するべき。
答案作成の際には、他の必須科目と異なり、答案を書きすぎてしまうことに注意。選択科目は第1問と第2問それぞれに4頁の答案が与えられるのみ。追加はできない。なので、4頁に収まるように双方の答案を仕上げる必要がある。時間としては余裕がある反面、しっかりとした答案構成をしなければ尻すぼみの答案になってしまう。
(B)教材
◎大塚「環境法」、◎判例百選、○実務環境法講義、◎ケースブック環境法、×ケースメソッド環境法、×環境法の要件事実
(C)コメント
(a)押さえるべき点
・環境法で高得点するのに必要なのは、以下の4つである。

・基本10法の知識
判例知識
民法行政法保全執行法の知識
・一行問題特有の答案の書き方の知識


・何はともあれ基本10法をおさえることから始まる。基本10法とは、環境基本法・循環基本法・廃掃法・容リ法・土対法・水質法・大汚法・自然公園法(自然環境基本法)・環境影響評価法・温対法の10法である。
10法について押さえるべき点は、法改正の経過、制度概要、条文、当該法の評価・課題、他の隣接法との比較といったポイントである。そして、これらのポイントは全て大塚教科書に網羅されている。
大塚教科書に書かれたこうしたポイントはすべて完全に暗記してしまうこと。書き忘れたが、4大原則についても当然押さえる。つらい作業のようだが、それでも倒産法や労働法に比べれば微々たるもの。それほど時間はかからない。
判例知識は、判例百選の知識及び大塚教科書の541頁から592頁(第2版当時)に記載された判例知識のことである。環境法では下級審判例も必修の場合が多い。判例百選の中には民法行政法で学んだ判例などが多くあるが、あくまで環境法的視点で改めて切り込むこと。
環境法的視点とは、民法行政法ではあまり問題とされないが、「環境リスクから被害者を救済するための方策」を考える上で環境法上重要な視点のことである。
たとえば四日市ぜんそく損害賠償請求事件(判例3)における共同不法行為の関連共同性の論点・疫学的因果関係の論点である。民法で共同不法行為を学ぶときは関連共同性については客観的関連共同性の論証だけ押さえて通り過ぎることが多いだろうが、環境法においては、強い関連性・弱い関連性と分ける二元論をしっかり押さえる必要がある。疫学的因果関係も民法では軽くスルーしていただろうが、環境法においては完璧に要件・効果を押さえる必要がある。
なぜなら、環境法では「法を駆使することによって環境リスクから被害者をどうやって救うのか」ということが一貫として聞かれているからだ。「最高裁は二元論を認めていないから書く必要なし」といったスタンスは環境法では通用しないし初めから求められていない。結論として最高裁を持ちだして否定するのは構わないが、「どうやって救済するか」→「考え方として○○がある」→「下級審で認められている」→「あてはめ」→「よって、本件では○○の主張をすることによって救済することができる」といった段階を踏む必要があるのだ。
差止めの根拠としての環境権についても同じことがいえる。環境権×(伊達火力発電所事件)→自然共有権×→平穏生活権×(丸森町廃棄物処分場事件)→人格権○といった流れを答案でスラスラかけるようになる必要がある(なお、この羅列はあくまで例。論理的な整合性については問題にしてない。要検討)。
他には、因果関係を論じる際の集団的因果関係→個別的因果関係の流れ(四日市事件)、新潟水俣病事件における門前到達説、不法行為を論じる際の危険への接近、当事者適格を論じる際の団体訴訟や自然の権利の論証(アマミノクロウサギ訴訟判決)、複数汚染源の差止、包括請求の可否、小田急判例原発判例・・・。判例知識に限定してもこのような論点が今思い起こすだけでざっと出てくる。こうした論点について検討するのが環境法の勉強である。そして、こうした論点をコンパクトに網羅しているのが大塚教科書である。
・訴訟問題ではその事案の具体的解決を求めている以上、民法行政法の知識は当然必要となる。
また、ケースによって保全・執行について論じることが必要となる場合がある。
とにかく問題文によるが、「知事として」「私人として」「弁護士として」どのような方策を講じるべきかという問題に対してそれぞれの立場で適切な回答をしなくてはならない。時には刑事の論点に入ることも。広い視点と柔軟な思考が求められる。一朝一夕では身に付かない。要練習。
他には、立証の問題や費用の問題といった民事訴訟法的な問題に踏み込む場合もあるだろう。
こうしたポイントの多くは大塚教科書に書かれている。
・答案を書く際のスタンスについては上述した。すなわち、「環境リスクから被害者を救済するための方策」をあれこれ答案上で考え抜くことである。最高裁がこうだから初めからダメでしょ、というスタンスは全く求められていない。
一行問題については答案の書き方のコツがある。論じる際の「切り口」を一つ又は複数見つけ、その切り口から法の制度・条文を論じていくという方法である。

たとえば、温対法に関する政策問題が聞かれた場合を想定する。この場合は、「予防原則」を「切り口」とする。
すなわち、以下のようにまとめるのである。

1.法の趣旨
温暖化についてのメカニズムや因果関係についての科学的知見が不確実ではあるが、温室効果ガスの大気中濃度が高まることによって温度上昇・海面上昇・異常気象の頻発といった現象が生じ、不可逆の被害が発生するおそれがあるので、予防原則の下で有効・効率的な方策を講じる必要がある、と法の趣旨をまず説明する。
2.制度・条文
地球温暖化を予防する手法としては、情報的手法の実践を軸に制度がつくられてきた。自主的手法・経済的手法も取り入れられてきた。
規制的手法ではなくこうした手法が取り入れられたのは、リスクが不確実であることから効率的な規制が困難であること、十分な監視が行政リソースの限界により無理であることからである。また、リスクが不確実な状況の下でも、情報的手法・自主的手法・経済的手法を用いること、もしくは組み合わせながら用いることによって有効かつ効率的な対策が可能だからである。
こうした視点で制度・条文を指摘する。
3.問題点の評価
もっとも、現在の法制度下では、自主的手法は十分に機能していない。なぜなら、経団連の自主的計画は業界ごとの計画をつなぎ合わせたものにすぎず、実効性が少ないからである。
また、経済的手法も環境税が未導入な点が×、排出権取引が不十分な点も×。
このように視点で法制度を評価して問題点を指摘する。
4.課題
問題点を踏まえた上で、予防原則に基づき、○○といった制度を導入すべき・・・。

以上のように、「切り口」を設定した上で制度趣旨→制度・条文→問題点の評価→課題→最後にまとめといった流れで説明していけば、立体的な文章となり、非常に説得的となる。「切り口」には4大原則のいずれかが該当する場合が多い。
なぜこうした文章が説得的かというと、大塚教科書がこういう文章の書き方をしているからである(民訴での比較問題にも応用できると私は考えている)。
以上が環境法で高得点を狙うために押さえるべき点である。こうした点を全て押さえた答案が現場で再現することを「目標」とすべき答案である。
この「目標に向けた」勉強法について続けて述べる。

(b)勉強法
・以上から自明だが、環境法の勉強は、大塚教科書の熟読に終始するといっても過言ではない。とにかく大塚教科書を読み込み、その内容を完璧に押さえること。これが環境法の勉強の極意である。
・時期については、択一に余裕があり、かつ、授業を受講するなどして環境法の基本知識が備わっているならば3月以降でも十分間に合う。そうでないならば年明け位から徐々に始めていくのがいいだろう。ただ、他の配点の高い主要科目の勉強時間を削らない点、何より択一の足切りラインを先にクリアするという点に注意。自分の能力を見極めながら勉強することは「適切な勉強」の骨子たる「時期に応じた勉強」に包含された内容である。
・勉強する内容は、上の教材。
・勉強方法は通常通りインプット→アウトプット。選択科目だからといって手を抜く理由はない。
・10法の知識は大塚環境法でまず押さえる。2版は改正に対応していないなどの不備が多々あったので、もし改訂されていなければ各々で必要な補充をしていく必要がある。
判例知識については、大塚教科書でまず基本的なポイントを押さえる。その上で、判例百選をしっかり読みこむ。下級審も重要判例であることが往々にしてあるので注意。判決の名前も覚えてしまうといいだろう。「H7.7.7.国道43号千訴訟上告審判決」という風に答案で判決名を書ければ印象点が上がるとの噂あり(環境法独自の噂だと思われるので注意)。
・こうした基本知識と答案の書き方のポイントを身につけるために、問題演習が必要となる。実務環境法講義・ケースブックは最低限やっておくべきだろう。ケースブックについては、ご存知のように、過去問が出題されているという実績もあるので繰り返し解いて損はないはず。4頁の制約やそれに伴う時間の使い方など、選択科目特有のポイントがあるので、「目標」である答案を「現場で」再現するためにはしっかりとした答案化→他人によりチェックの反復を行うこと。

(c)まとめ
選択科目だからといって手を抜かない、という認識をしっかり持つがことが全ての前提。
その上で環境法独自の視点から政策問題・訴訟問題について対策を十分講じる必要がある。ポイントは、基本10法の知識、判例知識、民法行政法保全執行法の知識、そして一行問題特有の答案の書き方の4つである。
時間的・労力的な投資を十分に行えば相当のリターンを確実に得ることができるはずである。
以上が、環境法における「適切な」勉強法だと私は考える。