受験の記録・論文編・憲法2

(受験の記録・目次)
(ロ-2)憲法2
(a)押さえるべき点(つづき)
・あてはめの書き分け
書き分けに苦しむのは、多くの場合、あてはめの内容の書き分けだろう。これを行うには、原告・被告・私見のそれぞれの立場において「何を」「どのような方針で」主張するのかという点をきちんと整理しておく必要がある。

・原告の立場を論じる際のポイント
原告では、「国・公共団体の具体的な行為が憲法上の権利侵害であること」を「フルスケール」で主張することとなる。
これを具体化すると、以下のようになる。
a.問題提起
まず、国・公共団体の具体的な行為によって原告の「○○の権利」(例えば、指紋押捺を強制されない権利)が侵害されているという具体的な事実を指摘する。これが問題提起にあたる。ここでは国・公共団体による単なる事実上の行為がなぜ憲法上問題となるのかということを論述する。生の事実を憲法的に分析するという視点は憲法の理解をアピールできる場だと思うので、この部分は実は憲法の答案上重要なポイントの潜む部分だと私は考える。
b.権利性
次に、その「○○の権利」が憲法で保障されているのか、権利性を論理的に論証する。
具体的には、(1)憲法の条文の文言を指摘した上で、(2)その条文の趣旨・目的・性質・法的性格からして○○を含めて保障していると考えるのが妥当なんだということを主張して、(3)あてはめをする。
例えば、指紋押捺を強制されない権利でいえば、

(1)第三章の人権カタログには書かれていないが、
(2)人権が自然権であることや人権の固有性を前提として、13条は、人権の希薄化を招かない程度の権利、すなわち、人格的生存に不可欠と考えられる権利について13条後段の「幸福追求権」として憲法上保障する趣旨であることを説明する。
その上で、(3)「人格的生存に不可欠」の部分をあてはめる。
具体的には、
(イ)自己情報をコントロールするという意味での「プライバシー」が国家に集中管理されると個人に対する有形無形の圧迫となるので、自己情報をコントロールする権利という意味のプライバシーは人格的生存に不可欠である。
(ロ)指紋は万人不同で終生不変の身体的特徴であり、指紋を追跡・調査することで思想の推測も可能であり、国家による有形無形の圧迫を受けるおそれがあるので、自己情報コントロール権という意味のプライバシーに該当する。
(ハ)よって、指紋押捺を強制されない権利は、自己情報コントロール権の一環として、13条によって憲法上保障される。

他には、Xが執筆・編集した書籍を市立図書館に置いて利用者の閲覧に供する自由を例に挙げれば、

(1)21条1項の「表現」は、事実・情報の伝達を意味する。(3)この点、上記行為は、Xの自由な思想・理念を利用者に伝達しようとするものであり、事実・情報の伝達に該当する。
(2)また、21条は個人の自我を発展させる自己実現の価値と国民の政治的意思決定に関わる自己統治の価値を保障する趣旨であるが、(3)Xの行為は、Xの自虐史観から自由な歴史思想を発達させることにつながるものであり自らの自我を発展させる自己実現の価値を有するといえる。また、Xは上記行為によって、Xの歴史史観を図書館利用者に触れさせることで日本における歴史教育の変更を企図しているのであり、市民の共同利害に関わる教育内容の変更という政治的意思決定に関わる自己統治の価値を有するといえる。よって、21条により憲法上保障される。

という感じで論証するのである。

c.権利制約
次に、権利制約の根拠を論じる。基本は「公共の福祉」だが、他にも多くのケースが判例上存在するので、これを押さえる必要がある。

d.二重の基準
次に、権利制約の限界を論じるために、違憲審査基準を立てる前提として二重の基準を論じる。権利の性質によって基準をダブルスタンダードで考えるのが判例の基本的な考え方だからである。この点、二重の基準自体は違憲審査基準ではないことに注意。

e.違憲審査基準
そして、肝心の違憲審査基準の定立を行う。
(1)内容規制と内容中立規制
精神的自由であれば、まずは内容規制と内容中立規制で区別する。内容規制は、内容に着目した規制なので恣意の危険が大きく他の手段で伝達できないので制約の程度が大きいのでこれを厳しく判断しようという規制方法であり、内容中立規制との違いはこのような要素の有無である。そこで、このような要素の有無を事案に則してあてはめる。つまり、内容に着目した規制か、恣意の危険があるか、他の手段で伝達できるか、という要素の有無を事案から判断するのである。
経済的自由であれば、規制二分論を論じて同じような流れであてはめをしていくことになるだろう。
その上で厳格基準や明白かつ現在の基準等の基準を持ちだすこととなるだろう。
これが原則的な流れだが、原則修正型というのも存在する。各所で解説されているはずなので、ここでは詳述しない。
(2)三基準説(もしくは三分類説)
三基準説とは、目的の正当性目的と手段の関連性手段の相当性という3つの要素で判断する方法である。関連性では、自由を放任すると危険が発生するのか、その危険を防止する上でこの手段は効果的といえるのか(それとも逆効果・無意味か)を判断する。相当性では、その手段が行き過ぎかどうかを判断する。自分がこの説を知ったのは辰巳の北出先生の講義である。この講義で、試験委員はこの三基準説を前提に採点しているとの話を聞いた。その後,羽広の答案集でも同じ旨が書かれていたので採用するに至った。ただ、実は私自身は基本書でこの説をチェックしていないので、理解に穴があると思う。各自の自己責任でしっかりチェックしておいて頂きたい。
この説でいくと、例えば厳格基準についていえば、「目的が必要不可欠」、「目的を達成する上で手段が是非とも必要最小限」という要素を挙げた上で、後者について関連性と相当性に分けることで3つの要素によって判断するのである。
他には、内容中立規制についていえば、猿払判例に則り、「目的が正当」、「目的と手段との間に合理的関連性がある」、「当該手段によって得られる利益と失われる利益との均衡がとれている」といった3つの要素で判断することになるだろう。猿払判例から外れるならば、「目的が重要」、「目的と手段との間に実質的関連性」、「当該手段が立法事実に則して相当」といった要素で判断する方法を採用することもありえるだろう。
このように3つの要素で事案を検討することで、詳細なあてはめが可能となる。

f.あてはめ
基準を定立した後は、あてはめである。
あてはめの内容の書き分けを行う際の注意点は、「水掛け論」に陥らないことである。「水掛け論」とは、1つの事実についてかみ合わない話をすること・勝敗が付かない議論をすることである。

例えば、「A宗教団体のメンバーBは、過去にテロ行為を行ったC宗教団体に所属していた」という事実について、原告は「Aは危険だ」と主張するのに対して、被告は「Aは危険でない」と主張するというように、1つの事実に基づいて互いに「危険性の有無」という点について異なる立場で主張をすることになり勝敗のつかない議論をすることである。

この「水掛け論」を避けるには、他の事実と関連させながら「確かに」「しかし」「そこで」の論法を徹底的に押さえることが最も効果的だと考える。つまり、この例でいうと、「確かに、危険性はある」「しかし、その危険性は小さい(例:なぜなら、他に○○という事実があるので、Cとは全く別の団体といえるからだ.)」「そこで、権利制約をするに値するほどの明らかな危険性の大きさは認められない」という主張が原告からはありえる。
これに対して、被告からも同じ論法で「危険性の大きさ」の主張を行わせる。こうすれば、1つの事実を両面から見ることから離れ、他の事実と関連させながら総合的な議論をすることが可能となる。これが「水掛け論」をさける効果的なあてはめの方法だと考える。
こうした「水掛け論」をさけるあてはめが憲法の答案の書き方の骨子であると考える。

g.言い切り型
以上が憲法の答案の書き方の骨子であるが、原告の立場で論述するときは、表現を工夫すると説得力が増す可能性がある。先輩にアドバイスされて知ったことなのだが、
「国の・・・という行為が○○条に反するといえるか問題となるので以下検討する」という冷静な表現をするのではなく、
「国の・・・という行為は、以下の通り、○○条に反するので違憲である。すなわち・・・」といった言い切り型の表現をすると説得力が増すというのである。
要は判決文を書くのではなく、準備書面を書くイメージで書くのである。原告は自分の主張を積極的に通そうという立場にあるので、このような言い切り型の表現をする方が立場に沿った表現といえ、説得力が増すということらしい。私は納得したのでこれを採用していた。実際に採用してみると書きやすさも感じていた。本当に採点に影響するのかは分からないが、気になった方は一度試してみてはいかがだろうか。

h.原則型と特別型
原則型とは、判例上、精神的自由・経済的自由の問題に明確に分類でき、二重の基準がそのまま妥当するような場合である。
特別型とは、政教分離条例制定権、教育権、労働基本権、財産権、平等原則、条例制定権といった原則型とは違う処理の仕方が判例でなされている場合である。
特別型については判例の処理の仕方を原則型とは別に理解しておく必要があるだろう。

i.法令違憲と「処分の違憲
両者の区別が重要なのは既知の通り。
ここでは注意点を1つ。
法令違憲を論じる際には具体的事実で論じてはいけないということ。あくまで法令違憲は法が憲法に一般的に反するということを主張しなくてはいけないので、具体的事実に触れた瞬間論理矛盾が生じてしまう。
法令違憲を論じる場合のあてはめは、あくまで一般的な立法事実等を用いることになるだろう。
意外とこの点は勘違いが多い気がする。確か去年の全国模試でも解答にこの点の混同があったと記憶している。要注意。

j.まとめ
以上が、原告の立場を論じる際の流れ・ポイントである。
「フルスケール」の内容を押さえるのが最大のポイントだろうか。この方針で書くと争点は1つか2つで精一杯となるだろう。「一点突破」である。
他方、合格答案・優秀答案の中には、争点を多くあげて「戦線拡大」していく方針の答案が存在する。これも十分に一局だろう。
実際自分もどちらの方針でいくか迷ったことがあるが、本試験を経験した今考えると「一点突破」が適当だと考える。複数の争点を3つの立場で書くことは相当の負担であり、現場の混乱した中でこれらを処理しきるのは相当の能力がなければ無理だと思うからだ。
とにかく、この原告のポイントを押さえるのが「憲法の答案の書き方」の骨子であることは間違いない。