アワーミュージック/ユングのサウンドトラック

ジャン=リュック・ゴダール監督による2004年作品「アワーミュージック」をDVDで購入、観る。
ゴダールの作品は、難しいという印象もあり、今まで避けてきたのだが、チャレンジの意味で今回観てみた。
・正直、ストーリの方はよく分からなかったのだが、菊池成孔著の「ユングサウンドトラック」を読んだ後に観てみると、音響的な意味での凄さを実感することはできたように思う。
・戦争映像のモンタージュによる「地獄」を描いた第1部、ゴダールとオルガの交流を描いた第2部、そして、第3部では「殉教」したオルガが(兵によって管理された)天国に至るという一連のストーリーの流れは分かったつもり。
ただ、ゴダールが「切り返し」という映画の手法で中東問題の対立を捉え直そうという説明の具体的な内容(物事には二面性があるんだ、っていうことだけではないだろうし)、「映画は光なのだ」というゴダールの言葉の意味、そして、これらのこととオルガの「殉教」との関連性など、釈然としないことばかりが残ってしまった。
また、兵によって管理された天国が、一方の人には安心を感じさせるのに対して、他方の人には支配を感じさせる、という二面性を描いたことだけは何となく理解したのだが、それ以外の、最後にオルガが男性と食べ物を分け合って食べていたシーンの意味もよく分からない。
哲学的な教養を持ち合わせていないからか、捉えどころのないまま映画が終わってしまったという感じ。
解説などを色々と読んでから、またチャレンジしたいと思う。
・他方、音響的な側面については、「ユングサウンドトラック」での菊池成孔の解説を読んで、理解が深まった。
第1部で、爆弾が着弾するタイミングにだけ、ピアノの音のアクセントをシンクロさせ、他では音と映像とをあえてかみ合わせないようにしている点、
第2部で、環境音が「実に不自然に」配置されている点、講義のシーンでの音の転換、「フェードアウトせずに」「ブツッと不器用にキレるゴダール印」(「音と映像が完璧に合致する「白雪姫」と対極」にある音響)、
第3部での、豊かな自然音と静かな交響楽。
菊池氏は、この「アワーミュージック」をして、「極めて誘惑的であるサウンド設計を誇る」作品であり、「映画におけるサラウンド表現の極地」と表現している。
自分の耳ではそこまでのものとは分からないのだが、音響的な視点で観ていると、確かに、これらの「ゴダール印」には気付けたし、共感することができた。
・とはいえ、菊池氏が言うように、この作品を観て「一般的な面白さ/感動」があり、「あけすけに面白い」「ストレートに感動的」という感想を持つことは、今後も無いだろうなとは思う。
この辺りが感性溢れる人との違いかな、という諦めを実感させられた感じもした。

アワーミュージック [DVD]

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ユングのサウンドトラック 菊地成孔の映画と映画音楽の本

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