受験の記録・論文編・総論

(受験の記録・目次)
3.論文編
(1)総論
(イ)はじめに
・多くの受験生が自覚しているように、漫然と書いても論文の点は伸びない。
全体の総論の部分で書いたように、論文対策として「適切な」勉強法は、合格答案の研究をした上で問題演習を積むことである。
具体的には、合格答案・優秀答案の骨子を踏まえた上で、それを現場で再現するのに必要とされる要素を分析し、それを身につける訓練を問題演習の中で行っていくことである。すなわち、合格答案・優秀答案という「目標」に向けて、それを試験現場で再現することを徹底的にイメージするのだ。
そこで、まず「目標」となる合格答案・優秀答案とは何かを各自で分析する作業が必要となる。合格答案・優秀答案を収集して、友人と検討し合うといい。その際には、「この答案はどこが・なぜ評価されているのか」「この答案とあの答案の差は何か」といった分析を通じて普遍的な要素を自分たちなりに導きだしていくといいだろう。自分は勉強会でこれを行った。非常に有意義な作業であったと記憶している。
これから自分がその分析を行った結果を基に論を進めるが、もしこの文章を読んでいる方が受験生であれば、この作業を各自でどうか怠らないでほしい。「知識」と「経験」は異なる。特に方法論については単なる「知識」を知っているだけでは現場で実践できるとは限らない。受験の現場で経験するシビアなテンションについては後述するつもりだ。どうか知識としてだけでなく「経験」することによって「身につけて」欲しい。

(ロ)時期
・「時期に応じた」勉強が「適切な」勉強法の骨子であることは上述した。論文の勉強においてもそれは同じだと思う。
・基礎知識がない状態で論文演習をしても意味は小さい。このようにスタート時点が早すぎると、問題の中身を理解できないまま問題演習をすることとなり、かえって効率が悪くなる可能性がある。分からないまま答案練習しても自分の中の思考過程を試験と同じように働かせることができなければ演習としての訓練の意味をなさないからである。
・時期については、3年の年明けからで十分。更に言えば、択一が足切りラインに届いた後。
足切りラインを突破できない場合は、基礎知識が不足している可能性がある。この状態で問題演習を行っても上記のように論文が中途半端となるおそれが高いし、これに加えて択一という弱点も抱えているようでは、リスクが大きすぎる。直前にあわてふためいて精神的に崩れてしまい、更にリスクが増すおそれもある。論文の訓練はコツさえつかめば早いので大丈夫。あせらずに普段の勉強の中で知識を蓄えていくのが一番の近道。ロースクールの授業に適宜ついていき基本知識を蓄える必要があることはいうまでもない。急がばまわれ。

(ハ)骨子
(A)前提として
・私は、羽広の合格答案集(Wセミナー)を主に参考とした。
これを読んだ後に他の合格答案と比べると羽広のやり方以外にも評価されることが分かるが、羽広のやり方が否定されるわけではない。これほど論文の書き方をノウハウ化した本はない。十分信用に足ると思う。
以下は、羽広の合格答案集に書いてある羽広のコメント、それを自分なりに咀嚼した分析結果をもとにしている。実際にこうした書き方が評価されるのかは、周りの合格者・友人・先生などに聞いたり、予備校答練の結果を参考にしたり、何より自分自身で分析した上で、自己責任で判断して欲しい。

・合格答案の共通点:最低限の主要論点を外していない。規範(基準+理由と言い換えても可)→あてはめが論理矛盾なく整理されている。(的外れな論点に飛びついているものや、あてはめが充実していないものもたまにある。)
・優秀答案の共通点:文章が読みやすい。短文、論理構成しっかり、シンプルかつコンパクトに要素を網羅、適切なナンバリング、説得力あり。あてはめは長々してないが要素は網羅している。

・「合格答案」と「優秀答案」。自分としては、この両者は区別したい。
正直、論点だけ押さえていれば合格できるのでは、という気持ちが少なからず自分の中にある。
ただ、本試験の現場で全ての論点を理解できることは(一部の人間を除いて)まずありえない。なので、そうしたリスクも踏まえて、「評価されやすい論述の仕方」をしっかりと理解しておくことはやはり重要なのだ。そこで、論点だけ押さえてある「合格答案」を目指してリスクを負うよりも、「評価されやすい」答案、すなわち「優秀答案」を目指すべく準備をすることは「合格するために」必要なことといえるだろう。
そこで、必要となることは、まず合格答案としての要件を満たすこと。その上で、優秀答案として評価される書き方の要素を押さえることである。

(B)本論
(a)合格答案としての要件
・合格答案となるためには、最低限の論点に気付かない、という事態を避けなければならないので、論点に関する知識をインプットする作業も当然必要となる。
・規範(基準・理由)→あてはめ、が論理矛盾なく整理されること。規範については後述。論理矛盾のない整理については、問題演習を積むしかないだろう。特に、実際に答案を作成することが大事。他人に読んでもらって評価してもらうことが大事。

(b)優秀答案として評価される書き方

・ナンバリング→標題→問題提起→規範→あてはめ。
・規範は、基準→理由→考慮要素→判断の仕方。
・あてはめは、事実摘示→事実評価→結論。
・事案分析はしっかり。
・傾斜配点と時間配分に注意すること。

これが評価されやすい答案の書き方の骨子である。
・ナンバリング→標題→問題提起→規範→あてはめ。
これが基本。
適切なナンバリングは書いた本人の適切な理解を示す、とよくいわれる。ナンバリングが適切であれば採点し易いだろうし、読みやすいので印象点も上がりやすいだろう。具体的な記号は、法律文書として正解はあるのだろうが、自分は何でもいいと思う。いつかの法学教室で特集があったはずなので参考にするといいだろう。
標題も、その趣旨はナンバリングと同じ。採点し易い、読みやすいというメリット。たとえば刑法でいうと「・・・の・・・という行為について」「・・・という結果について」(羽広参照)といった感じ。標題をつけるポイントは、論点名とは全く異なるということ。羽広の合格答案集を読んでみるのが早い。
問題提起は、あくまで規範の導入。長々書いても何のメリットもない。時間・配点との関係によっては真っ先に削る。自分は、最重要論点といえる論点だけに書いていた。
・規範は、基準→理由→考慮要素→判断の仕方。
「基準」、「理由」については、もうお分かりだろう。この点については論証を練習して正確な知識をインプットすることとなるだろう(後述)。論理整然としたものを自分の中で完成させること。条文の文言の指摘→趣旨・判例による文言(拡大・縮小)解釈という流れが基本。論証ノートを自分で作成することを勧める。
「考慮要素」「判断の仕方」については、目新しいだろう。これは事実評価に関係してくる。羽広に詳しい。
たとえば、刑訴でいうと、任意捜査の違法性の論点について、必要性・緊急性・相当性という判断基準をまず掲げる。
次に、考慮要素として、必要性については事件の重大性・嫌疑の程度・補充性、緊急性については証拠隠滅の可能性・逃亡の恐れ・再発のおそれ、相当性については必要性と緊急性の程度・権利侵害の程度・配慮の有無、といった項目をあげる。
判断の仕方は、総合考慮である。
これが刑訴法321条1項2号後段の特信情況の論点であれば、前の供述と比べた信用度が基準となり、判断の仕方は外部的事情を原則的な指標として供述内容を副次的な指標とする、という記述になるだろう。
このように、規範と一口に言っても、様々な要素がある。これらをコンパクトにまとめた論証が「評価されやすい」ものであると考える。
ただ、あてはめがちゃんとしていなければ規範を頑張って書いても評価されないおそれが大きい、というのはご存知だろう。規範というのはあくまで事実を処理するためにツールとして持ち出した抽象論であって、それが具体的に事実の処理に反映されていなければそもそも論理的な文章とはいえない。また、規範をツールとして利用できていない、と烙印を押されてしまうからである。
・あてはめは、事実摘示→事実評価→結論。
事実摘示とは、事案に書いてある文言の抜き出しである。これが評価の対象となる。まず対象を示すことが事実評価の論理的な前提となる。もっとも、まともに抜き出していると時間・労力のロスとなるので、「うまいこと抜き出す」しかない。要練習。
事実評価とは、規範で掲げた抽象論を具体化して論理的な結論を導き出すことである。「なぜこの事実がこの規範の要素にあてはまる、といえるのか」という説明を具体的に加えることである。規範と結論との間にアーチをかけることである。新司法試験になってにわかに注目されるようになった。これを押さえることが論文対策の最重要ポイントといえるだろう。
ただ、自分が合格答案を検討していると、この事実評価が充実している答案はほとんど見たことがない。全体の総論と矛盾することを書くようで申し訳ない。おそらく合格答案の要件ではなく、あくまで優秀答案として評価される要素の1つにすぎない、というのが自分の印象。それほど神経質になる必要はない、と自分は考えているが、それでも理解できた方がいいのはいうまでもない。
事実評価は難しいが、コツがある。規範の中で考慮要素・判断の仕方を掲げたのがここに関わってくる。考慮要素として挙げたワードに該当する理由を説明することがそのまま事実評価となるからである。
たとえば、上で任意捜査の違法性の考慮要素の1つとしてあげた「事件の重大性」について、嫌疑の対象となっている事実を摘示する。そして、その事実が「なぜ重大か」を説明する。それが事実の評価である。この例でいえば、その嫌疑の内容となっている犯罪の法定刑が○○年と長い、被害の影響がこんなにある、といった評価を加えるのである。
こうすると、摘示した事実が「事件の重大性」というワードとつながる。そして、「必要性」という抽象的な文言が具体化され、「よって、・・・という行為は、違法である」という結論と論理的につながるのである。「アーチをかける」というのはこういうことである。
このように。規範を具体化した考慮要素を掲げる→それに具体的な事実が該当することを説得的に説明する、という2段階の流れが事実評価のコツである。
1段階目のコツは、判例の事例をよく理解することである。他にあるとすれば趣旨・目的に立ちかえることだろうか。
2段階目のコツは、以下の通り。

・評価の方向を誤らない(ex.表見代理の善意無過失のあてはめ→対象は代理権の有無→代理権の有無についての調査義務・確認義務の懈怠をあてはめる。)
・枠組みをしっかりつくる。評価が行ったり来たりするのは×。あくまでシンプルかつコンパクトに。
・主体となる人物の地位・帰属先に着目。職業など。
・比較の視点。ある行為が行われた場合と行われなかった場合の比較など。
・当該行為の原因・目的を前後を見て特定。
・一般常識の観点を忘れない。取引慣行などに関する知識が必要となる場合も。

このような2段階の論理構造をしっかり押さえることができれば、1段階目と2段階目が逆でもいいことにも気づくだろう。あらかじめ考慮要素として掲げずに、摘示した事実を具体的ファクターに帰結させる方法。時間をかけることができない場合にはこの方法を自分はよく用いた。このあたりは答案を作成していく中で身についていくと思う。要練習。

・傾斜配点
これは、論点間の傾斜、1つの論点の中の論証に関する傾斜という2つの意味がある。
旧司法試験時代から言われていることだが、「基本」に大きな配点がある、ということを傾斜配点という。前者の例でいうと、特別事情などの処理については配点自体が小さいのではないか。後者の例でいうと、原則の論証に配点があり、例外の論証には配点が少ないのではないか、ということである(論証とは、規範の論証も含むが、新司法試験では多くはあてはめの論証であることに注意)。
こうした配点の方法について知っておけば、論述の際の工夫によっては高得点を狙うこともできるだろう。
・事案分析
「事案分析が間違っていれば論点の抽出もあてはめも何から何まで間違ってしまう。おそらく実力者が落ちるパターンの一つといえるだろう。」全体の総論で論じたとおりである。事案分析をする視点・角度を事前に自分の中で確立しておくと効率的に正確に事案分析できるのではないか。
自分が設けた視点は、「5W1H」。そして、「基本から外れた特殊事情を探す」というもの。
後者の例は、一人会社、完全子会社、固有必要的共同訴訟の関係に立つ場合、契約複数の場合→契約同士・当事者同士の関係性など。とにかく「あー、これはこの論点の問題だな」ということを念頭に置きながら読むのが通常だと思うのだが、その初めの印象だけにとらわれずに常に「この論点のケースには通常現れない事情」を探す姿勢を貫く、ということである。自分は蛍光ペンを片手に事案を読み、何か特殊事情と感じるところは片っ端からチェックをしていた。何が基本で何が特殊事情か、というのは日々の問題演習で自然と身に着いた気がする。
このように何か事案を読むときの視点を設けていると、事案分析で失敗することが少なくなると思う。
事案分析を正確に行うことは、正確な事案処理につながる、という意味で高得点獲得にはかかせない技術といえる。
・時間配分
全体の総論で論じたとおり、極めて重要である。自分は、本番直前に「時間不足に陥りさえしなければ合格できる」と考えていた。逆のケースを恐れていたからこそである。「現場で」答案を書くことの困難を知ることから論文対策は始まる。時間配分の方法については、詳述する。
傾斜配点と合わせて考えて、配点のあるところに時間をかたむけ、配点のないところには時間をかけない。当たり前のようだが、これはなかなかできない。
途中答案でも合格している例があるが、優秀答案となるにはこの点について徹底することは必要不可欠といえる。

(C)結論
以上が自分の分析に基づく合格答案・優秀答案の姿である。はじめに述べたように、これが真実であるかどうかは、各自の分析の中で確認・追加・削除していってほしい。
更に、確認・追加・削除をした後には、知識を経験に変えていく勉強が必要となる。その勉強法について続いて述べる。

(二)勉強法
・論点を外さない練習
これは基本的には普段の勉強で蓄えるものである。択一の勉強をしていく中でも自然とつみあがっていくだろう。
こうした知識が自分の中で定着しているのかを確かめる作業として、問題演習が必要となる。
旧司法試験などの事案が短く大量に回していくことのできる問題を演習する。旧試験の他には、Wセミナーの「論文基本問題」もいいだろう。
・答案要素を身につける練習
新司法試験、事例研究、事例演習、ロースクールの試験の演習など、事案が充実した問題を演習する。それを実際に答案化する。時間は適宜設定。
そして、解説を元に自分で採点する。
その上で他の人に採点してもらう。その人の採点が自分の採点とズレているのであれば、そのズレについて議論するといいだろう。ズレているというのは、主観的に要素を押さえているつもりでも客観的にはそれが実践されていない可能性があるということだ。この点については徹底的に修正していく必要がある。
・フィードバック
問題演習の際に失敗した点は、その都度メモとして書き出しておく(自分は「勉強ノート」にメモした)。そして、そのメモを普段の勉強を始める前にチェックして、日々の勉強にフィードバックさせる。また、そのメモは本試験の論文試験の直前に最後の見直しとしてチェックできる形で整理しておくといいだろう。(自分はA4の紙1枚に科目ごとに書き出して整理した。本番直前に見返したものについては後述)
自分がメモとして書き出した項目は、例えば民事系でいうと次の通り(一部)。

消滅時効・取得時効の見落としに注意
・商法の適用の見落としに注意
・特別利害関係の論点の見落としに注意
・株主の数を常に注意→一人株主の論点→利益相反との関係
先取特権の成立の見落としに注意
・契約当事者は誰か、という点を常に正確にチェック→代理を身落とさない
・過失のあてはめ→調査義務と確認義務の双方を着実にあてはめ

このような問題演習を行い失敗した結果をそのままにせず、一度間違えた点を二度を間違えない、というのは択一と同じ。
・規範(主に、基準・理由の)論証について
規範には点数が振られていない、とよくいわれる。合格答案を検証しても確かに規範を充実させた答案が必ずしも評価されているわけではないので、おそらくこれは事実だと思う。
ただ、論証を準備しなくていいか、といわれればそれは間違いだと私は思う。
論理的な文章を書くために規範を書くこと自体は必要不可欠であること、不正確な規範は減点の可能性があること(憲法の過去問で94条違反を論じる問題を参照。例の判例の規範の論証が不正確なものは点数が伸びてないことが分かる)、論証をあれこれ現場で考えている余裕はないことからである。
では、どのような内容の論証をどのような方法で準備するか。
内容については、条文の文言の指摘→趣旨・判例による文言(拡大・縮小)解釈という流れが基本なのは上述の通り。原則として、学説ではなく判例ベース。それで書きにくい場合、覚えにくい場合などは基本書などでしっくりくる学説を選べばいいだろう。よく言われるように、どの見解をとっても基本的には減点にはならない。ただ正確に暗記するように。(独自説でも減点されないという噂もあるが、確証はない。思いつかない場合は仕方ないが、リスクはあらかじめ減らしておくべき。)
方法については、日々の勉強が基本なのはいうまでもない。今は辰巳で論証集が出ているので、それをチェックするのもいいだろう。
日々の勉強の中で基本知識が身についているのであれば特別に暗記するという作業は不要。自分は論文の勉強を始めた時点である程度基本知識を身に付けているつもりでいた(大学時代に受けていた予備校講座でもらった論証集をすでに覚えていた。3年生の9月までの間に日々の勉強の中で全科目の論証ノートを自分で作成していた)。日々の問題演習で覚えていない論点に出遭ったときにその都度論証集・論証ノートを見返し、直前に気になる論点(あまり頭に定着してない論点、本番で出そうな論点)についてザッと見直す、という程度にとどめていた。
覚えていない場合は、日々の勉強の中で規範暗記という時間を設けるべき。辰巳の論証集を覚えるだけでも、それほど時間はかからないだろう。暗記方法については、番外の該当記事を参照。

(ホ)まとめ
一般的な論文対策として私が考える「適切な」勉強法は、以上の通りである。
ただ、新司法試験の問題は科目ごとにそれぞれ特徴がある。たとえば、憲法の答案を書くときは、違憲審査基準をどうするか、といったポイントを押さえることがどうしても必要となるだろう。そうした科目ごとの特徴・それに応じた勉強法について各論で論じていきたい。